社員持ち株会を活用して自社株対策

Ⅰ.社員持ち株会を活用して自社株財産を減らす

1  社員持株会への放出対策の考え方

オーナー会社の株式財産を減らすための方法として、株価を引き下げる方法のほかに、オーナーが所有している株式を減らす方法があります。その方法の一つとして、社員持株会の活用があります。

オーナー会社における事業承継の重要な要素の一つとして、経営支配権の問題があります。

オーナー一族での会社支配の功罪はあるでしょうが、同族会社での株式分散による多数株主の存在のほうがもともと経営基盤の弱い非公開会社の中小会社においては問題が大きいと考えます。
したがって、オーナー一族で最低保有株式数50%以上、できれば株主総会の特別決議に必要な持株数の3分の2(66.67%)以上が望ましいことになります。

自社株財産を減らす

 

2  社員持株会への売却価額

社員持株会の社員株主への売却価額は、同族株主以外ですから、例外的な評価方式である配当還元価額の1株当たり500円以上であれば贈与税の課税はありません。
また、1株当たりの売却価額が500円以下であっても、社員1人当たりの贈与額が非課税範囲の110万円以内であれば贈与税は課税されないことになります。

3  社員持株会の目的とメリット

(1)社員の財産形成への一助
利益配当の支払いによる預貯金の収入利子よりも効果が大きく、かつ利益配当を優先することによって安定した収入を得ることができます。

(2)株式の社外流出の防止
すでに社員に株式を所有させている同族会社においては、社員の相続や贈与によって株主が会社とはまったく関係のない株主に所有されていくことが防止されます。また社員の死亡や退職の場合には、持株の買取請求に対処する方法として有効になります。これは「社員持株会規約」において、「株式の買取り先」と「株式の売買価額」を決めておくことによって可能になります。

(3)オーナーの相続税対策
オーナーの持株を社員持株会へ放出することによって株式財産たる相続財産が減少します。また、増資による放出であっても株式の評価額が下がることによって相続財産が減少し、相続税が減少することになります。

 

Ⅱ.社員持株会への譲渡の具体例

当社は資本金3,000万円、社員150人の同族会社です。オーナー社長がその発行済株式総数の80%を所有し、10%は社長の妻が所有しています。残り10%は同族株主以外の役員と社外株主です。
社長の持株を放出して、社員持株会を発足させたいと考えています。社員持株会への放出の考え方はどのようにすればよいでしょうか。また、その効果はどのようになるのでしょうか。
主な概要は次のとおりです。

・資本金
・1株当たりの資本の額
・1株当たりの相続税評価額
・配当率
・社長の相続税評価額
3,000万円
500円
2万円
年10%
9億6,000万円
(発行済株式総数6万株)
1  基本方針

(1)社員持株会に議決権のある普通株を所有させる場合の社長の放出は、発行株式数の20%(12,000株)の範囲にします。オーナーの持株割合60%と妻の持株割合10%で合計持株割合は70%になります。

(2)社員持株会に株主総会での主要な決議に参加できない議決権制限株式(配当決議のみ等)に転換してから所有させる場合の社長の放出は30%位が妥当でしょう。

2  対策と効果

(1)オーナーの所有する4万8,000株のうち2万株を配当優先株式かつ、議決権制限株式に変えて、社長持株会の会員に売却します。

・売却価額
500円
(売却価額)
×2万株 =1,000万円
(取得価額)
・株式譲渡益 1,000万円-1,000万円=0

(2)オーナーの所有株式財産額

2万円×2万8,000株=5億6,000万円(4億円の減額)

(3)オーナーと妻の議決権割合

Ⅲ.社員持株会の運営ポイント

1  社員持株会の設立と配当金の意義

持株会は、民法(第667条)上の組合として設立します。

この民法上の組合は、法人格はなく、単なる個人の集合体であるため、株式の名義登録は持株会としてはできません。

よって、形式的には、持株会の理事長名義とし、株券の管理を理事長に信託する方法にします。したがって、株式は持株会が所有し、社員株主は持株会の持分を所有する関係になります。このように、株券を一元的に集中管理することによって、株式の社外流出を防止することができます。

さらに、民法上の組合は、税務上の人格のない社団に該当しないとしています(法基通1-1-1)。そして、配当金については、「実質所得者課税の原則」に基づいて、実質的な所得は組合員に帰属するものと解されています。したがって、配当金は理事長に一括して支払われますが、実質の受益者は会員の個々になっていますから、配当金はすべて各個人の配当所得として取り扱います。

2  社員の取得資金

社員は、自社株取得のため、取得資金を準備します。
同族会社における社員の株式の取得は、臨時的にオーナー等の大株主からの特別な譲受け、または第三者割当増資の引受けなどの特別なケースがほとんどです。社員は、その後オーナー等より買い取ることになります。
しかしながら、社員の資金負担が過重になる場合があります。そこで会社は株式購入資金の援助を行います。
資金援助の方法としては、下記のようなものがあります。

(1)会社が社員個々に融資する。
(2)社が持株会に融資し、持株会が会員に貸し付ける。
(3)購入資金の一部を特別に臨時賞与として支給する。

各社員は自己の計算において、社員ごとの債務を確定し、株主としての権利義務を明確に書類で管理します。
会社の資金を貸し付ける場合の利率は、会社が通常他から借入れを行う場合の平均利率を勘案して使用すればよいと思われます。
無利息や低利率での貸付けは、通常の利率との差額の利息が5,000円を超える場合はその利息の差額は給与所得として課税されることになります。また、奨励金として会員に補助する場合は、株主への利益供与禁止規定に留意が必要です。

3  社員持株会への取得株式の拠出

社員はオーナー等より取得した株式を持株会へ拠出します。
この社員がオーナー等より、自社株式を取得する場合の価額は、配当還元価額です。したがって、売買価額として配当還元価額にすれば、課税問題は生じません。

4  購入した株式の配分

持株会に拠出された株式は、拠出した会員の株式金額に比例して持分を有します。会員の持分については会員別の持分明細簿を作成し登録します。

5  株式の名義と管理

(1)会員は、拠出され登録された株式を管理のため持株会理事長に信託します。

(2)株式の名義人は、持株会理事長名義として会社へ届出をします。

(3)株券不所持制度を採用します。株券不所持制度とは、会社が株主より株券不所持の申し出があった場合は、株券を廃棄処分して株券不発行の状態にしておくか、銀行または信託会社に寄託します。
これは、株券を紛失などした場合、第三者による善意の取得が発生することにより、株主権の喪失、株主の資格喪失という危険を排除する制度です。
株券不所持の申し出は、株主が「株券不所持申出書」を会社に提出することにより、会社は株券を不発行とするか、または寄託するかを決定します。
なお、会社は、不発行または寄託のいずれかの措置をとったかを、株主に通知しなければなりません。この通知は「株券不所持申出受付証」として行います。このように、社員持株会の所有する株式についても、理事長名義で「株券不所持申出書」を提出して会社が保管しておく手続きをとることになります。

6  社員持株会の所有する株式の議決権の行使

株式の議決権は、名義人である理事長が会員の議決権を一括して行使するように規約に定めます。ただし、会員は、その持分に相当する株式の議決権の行使について、各株主総会ごとに指示をすることができます。
また、会員に議決権の行使について不統一があった場合は、その行使を認めることができるようにしているのが通常です。これは、各会員の独立性が確保されていることになるからです。

7  配当金の支払い

持株会が会社から受け取った配当金は、会員の持分に応じて決算期ごとに現金で、遅滞なく交付します。
なお、会員1人当たりの持分配当金が年間3万円を超える場合には、持株会理事長は、その会員ごとの「信託に関する計算書」を翌年の1月31日までに持株会所在地の所轄税務署宛てに提出しなければなりません。
これは、会社が配当金の支払調書を持株会の理事長名で所轄の税務署に提出するからです。

8  社員持株会からの退会と株式の買取価額

会員が退職等の理由により持株会を退会する場合は、持株会規約に定められた価額で持株会が株式を買い取り、現金で交付します。

通常、持株会規約において、退職の際には所有する株式のすべてを持株会へ譲渡すべきものとし、その譲渡価額は、配当還元価額方式による評価方法を参考にして、毎期首に理事会において定めるものとしておきます。

9  社員持株会会員の範囲と資格

(1) 「社員持株会」の会員の範囲について
持株会の会員となる社員は、当該会社の社員及び当該会社の子会社の社員に限られます。持株会の会員となる範囲を拡大すると証券投資信託法第3条(何人も、証券投資信託を除くほか、信託財産を主として有価証券に対する投資として運用することを目的とする信託契約を締結してはならない。ただし信託の受益権を分割して不特定かつ多数の者に取得させることを目的としないものについては、この限りでない。)の趣旨に照らし法令違反の疑義が生じる可能性があるためです。
したがって、その範囲は当該会社の社員のほか、資本関係、人的関係等からみて、実質的に当該会社の社員と同様と認められるものに限るとされています。
すなわち、当該会社の社員と子会社の社員であり、通常の関連会社の社員は含まれません。ただし、関連会社に出向している社員は認められるのは当然です。
これは、社員持株会は、持株会所有株式の名義を理事長とし、その理事長に管理信託する、信託契約によって成り立っていますから規制の対象とすべきだからです。

(2)子会社とは
子会社とは、総株主の議決権の50%超の株式を有している会社をいいます。また、子会社との所有株式数の合計が、総株主の議決権の50%超の株式を有する会社も含まれます。
図示すると次のようになり、会社において、B社、C社もそれぞれ子会社となります。

(3)関連会社とは
関連会社とは、子会社の所有する株式を含めて総株主の議決権(議決権のない株式は除く)の20%以上50%以下を実質的に所有しており、会社の経営方針に重要な影響を与えることができる会社をいいます。
図示すると次のようになり、A社において、B社が子会社であり、C社が関連会社になります。

(4)社員持株会の会員資格
社員持株会の規約において、会員資格を勤続年数5年以上とか10年以上として限定することも可能ですし、単に「当社社員及び子会社の社員とする」とのみ規約することもできます。要は、当該会社にとって必要な社員の範囲を決定すればよいことになります。

 

Ⅳ.社員持株会の設立手順

1  設立準備
(1) 設立準備から会員の募集までの事務処理を行う事務局を総務部などに設置します。
(2) 発起人の選任をします。
発起人は、持株会の設立後の役員(理事長、理事、監事)が通常なります。
(3) 持株会の基本的事項と持株会規約案を作成します。
加入資格(子会社の社員も含めるかどうか)とか、名称などの持株会規約の内容の検討です。
(4) 労働組合等があれば、事前の協議を行い了解を得ます。
(5) 大株主との事前折衝を行います。
(6) 取締役会の承認決議を受けます。
(7) 設立後の事務処理の担当者を決定しておきます。
(8) 各種の締結書類を作成します。
 
奨励金の付与の会社との締結書類
給料からの天引きなどの労働組合との協定書
2  設立手順
(1) 設立発起人会の開催
「社員持株会設立発起人会議事録」を作成し、持株会規約の承認、役員の選任を記録します。
(2) 第一回理事会を開催し、理事長の選任と株式も購入価額を決定します。
「理事会議事録」を作成します。
(3) 準備段階で作成された各種の締結書類について調印をします。
(4) 持株会の預金口座を銀行に開設します。預金は普通預金口座にします。
(5) なお、持株会の届出については、どこにも必要ありません。
3  募集手続

持株会の設立の手続きが終了すれば、会員募集を行います。その後、社員持株会名簿を作成し、各個人の株式持分を明確にし、保管することになります。

中小会社の持株会の会員募集は、すでに株式を取得している社員が応ずることになるのが前提です。したがって、株式を取得する以前に内諾してもらっておくことになります。実務では「持株会入会申込書」を作成し、申込株式数と株式金額を記載します。

 

目的から探す
事業承継を考えたい
節税したい
会社を黒字化したい
成長戦略を考えたい
創業したい
Copyright© 2017 みどり合同税理士法人グループ All Rights Reserved.