中期計画貸借対照表の作成法

基本的考え方

中期計画貸借対照表の作成方法は、資産、負債、純資産の科目毎に翌年度において変動する要因を予測し、これを今年度末の貸借対照表に加減して翌年度の残高を計算するというものです。翌年度において変動する要因をつかみきれないものについては、現状の売上高回転率をもとに翌年度末の残高を予測します。

運転資本計画

まず、売掛金、受取手形、棚卸資産、買掛金、支払手形などの営業上の資産、負債については、今年度の回転率をもとに改善計画を盛り込んで時期の回転率計画を策定し、翌年度の計画売上高等から翌年度末の残高を予測します。

事例

11期

  • 売上高 200,000千円
  • 仕入高 160,000
  • 売掛金 20,000(回転率10.0回、回転期間37日)
  • 受取手形 80,000(回転率2.5回、回転期間146日)
  • 棚卸資産 40,000(回転率5.0回、回転期間73日)
  • 買掛金 16,000(回転率10.0回、回転期間37日)
  • 支払手形 32,000(回転率5.0回、回転期間73日)

12期

  • 売上高 200,000千円
  • 仕入高 190,000
  • 売掛金 24,000(回転率10.0回、回転期間37日)
  • 受取手形 80,000(回転率3.0回、回転期間122日)
  • 棚卸資産 40,000(回転率6.0回、回転期間61日)
  • 買掛金 19,000(回転率10.0回、回転期間37日)
  • 支払手形 38,000(回転率5.0回、回転期間73日)

前述の例では、11期における必要運転資本は、

売掛金+受取手形+棚卸資産-(買掛金+支払手形)
として計算されますので、
20,000千円+80,000千円+40,000千円-(16,000千円+32,000千円)=92,000千円
と計算されます。

12期における必要運転資本を少しでも圧縮するために、手形サイトの短い得意先への売上構成を高め、また、売筋商品に商品構成を絞ることによって、受取手形回転率と棚卸資産回転率を高める計画を立てた場合、売掛金、受取手形、棚卸資産、買掛金、支払手形は上記のように計算され、この結果、12期における必要運転資本は、
24,000千円+80,000千円+40,000千円-(19,000千円+38,000千円)=87,000千円
と計算されます。

設備資本計画

設備資本計画は、翌年度の設備投資計画と翌年度の減価償却予定額から計画します。
設備投資計画および減価償却については、固定資産の種類別に予測します。
調達資本については、自己資本か他人資本か、他人資本の場合は支払手形か借入金か、あるいはリースかを決めます。なお、他人資本を利用する場合は、借入金返済計画や手形決済計画等の計画も必要になります。

その他項目

(1)納税充当金

翌年度の税引前当期純利益から未払法人税等を予測して計画します。

(2)借入金等

長期借入金は、約定の返済条件に従って翌年度の返済額を計画します。短期借入金は、返済がはっきりしているものはその金額を、借替えしているものについては、ひとまずそのまま継続するものとします。
割引手形は、今期の金額をそのまま記入するか、あるいは翌年度末の受取手形残高から今年度の手形割引額を参考に翌年度の割引額を予測します。借入金の返済計画は重要なので別途計画表を作成します。

(3)現金預金

定期預金および積立預金の積立額や満期取崩しが決まっているものについては、それによって計算した金額を今年度貸借対照表に増減して翌年度末残高を計画します。現金・当座預金は適正手持ち残高がわかればそれを、わからない場合には今年度の回転率を基に予測します。

(4)その他の資産、負債計画

その他の流動資産、流動負債等については変動要因が解っていればそれに基づいて、解らない場合には売上回転率等を参考に予測します。

(5)純資産計画

純資産勘定のうち、資本金は変動がなければ今年度の金額と同額。利益剰余金の各勘定残高も、原則として今年度末の残高をそのまま引き継ぐものとします。

(6)貸借差額の調整

以上の結果作成された仮の計画貸借対照表を確認すると、貸借のいずれかに差額が発生します。その差額は、それぞれの科目が正しかったとした場合の、資金の余剰あるいは不足を表しています。貸借差額は、現金預金で調整し、計画貸借対照表を完成させます。

資産内容、資産効率の
改善計画を立てる

(1)資産内容、資産効率の改善を図るため、資産内容を再確認する

経営ビジョンは、将来への展望を意味し、その企業の目指す将来の具体的な姿(将来の自社のありたい姿)を示すもので、経営者の想いでもあります。

  1. 回収可能性のない資産の有無の確認
    • 得意先の倒産等により、回収できない受取手形や売掛金はないか
    • 棚卸資産で長期に滞留し、販売見込が低いものはないか
    • 貸付金等で固定化しているもの、回収可能性の低いものはないか
    • 資産性のない仮払金や繰延資産等はないか
  2. 本業に使用されない資産の有無等の確認
    ゴルフ会員権、株式、遊休不動産、役員退職金等があれば、含み損益や処分可能性を確認します。

(2)資産処分により資産のスリム化を図る

本業以外の資産である遊休不動産、投資有価証券、ゴルフ会員権、過剰な生命保険等の資産については、基本的には売却や解約によりキャッシュフローの増加を図ります。また、事業の「集中と選択」の考え方から営業所や工場等の集約、売却についても積極的に検討します。このように、所有する資産は活用して収益を生むものだけに絞るべきで、併せて有利子負債の圧縮も図るべきです。

(3)計画貸借対照表から資産効率の改善を図る

計画貸借対照表を評価した結果、「自己資本が増加する等財務内容は改善されたが、現金預金が減少した。また、売上高が増加したとはいえ、売掛債権残高が増加した。棚卸資産残高は原価率の低下により減少したが、成り行きである。」となった場合、「ここから、もう一歩先に進めないだろうか!」と考えることが重要です。すなわち、資産効率をより高める方法を検討するということです。
例えば、販売先別に売掛債権の回収計画をきめ細かく立て、債権残高を減少させます。在庫水準を見直し、棚卸資産を減少させる等である。このように計画を策定することにより、具体的に経営改善策を検討することができるようになるのです。

借入金返済計画を立てる

借入依存度が高い企業は、借入金の返済計画をきちんと立てることが必要です。借入依存度が高いと金利負担が重くなるばかりでなく、金融機関からの評価が下がり、借入が思うようにいかなくなり、ひいては経営が不安定になる可能性が高くなるからです。
したがって、現在の金融債務を「いつまでに、どの程度圧縮するか」「どの程度まで圧縮すれば、評価が上がるか」等の観点から目標利益を検討し、経営計画を策定するのも重要な視点です。
経営計画期間中に、資金調達の必要が生じる場合は、経営計画書の中に調達計画をきちんと織り込み、前もって金融機関にアナウンスしておくことも必要です。

中期計画貸借対照表

中期計画貸借対照表
※画像クリックで拡大できます。

© みどり合同税理士法人グループ