株式を活用した節税対策①

オーナー所有株式の資金化対策

1.自社株の譲渡価額

自社株式を譲渡する際の価額は、譲渡する側と譲渡される側の合意により決定されます。譲渡価額は第三者が決定するものではなく当事者間で決められます。
当事者間で合意した譲渡価額によっては、税務上の課税が生じる場合があります。

2.課税が生じない譲渡価額

税務面から見たあるべき価額も一様ではありません。個人間売買と法人が当事者の一方または法人間売買になっている場合とでは、取扱が異なってきます。

個人間売買のケース

株式の相続税評価額未満で譲渡した場合、贈与税の課税が生じることになります。つまり、相続税評価額よりも低く株式を取得した側に、その安い分だけの贈与があったとして贈与税が課税されます。

法人が当事者のどちらかである場合

基本的には、「時価」でなければ課税が生じる。

「時価」よりも低い場合 譲渡した法人は「時価」との差額が寄付金
譲り受けた法人は、「時価」との差額について、受贈益の認定が行われる。

このように、法人が当事者となる場合「時価」との差額について課税が生じることになるため、譲渡価額が「時価」かどうか問題となります。

3.「時価」とは

自社株の「時価」については、上場株式のような取引相場がないため、その算定が問題となりますが、原則的には、財産評価基本通達で定められている小会社としての評価額によります。

ただし、対象会社が土地又は上場株式を所有している場合は、「1株当り純資産価額」の計算にあたり、これらの資産についてはその時点での時価(相続税評価額ではなく取引相場)によります。

4.所有株式の関連会社への売却

オーナーの所有する株式を関連会社へ売却する場合も、前述した「時価」でもって行なう必要があります。
オーナーの自社株を関連会社へ売却した効果は次の通りです。

  1. オーナーの所有株式
    総株数 10,000株(資本金500万円)
    相続税評価額 7,000円/1株
    株式の時価 8,500円/1株
  2. 関連会社への売却株数 5,000株
  3. オーナーの所有する財産評価額(自社株を除く)50,000万円
  4. 配偶者、子供2名。

(単位:万円)

項目 金額 摘要
売却価額
取得価額
売却益
所得税・住民税
4,250
250
(5,000株×8,500円)
(5,000株×500円)(4,000万円×20%)
4,000
800

したがって、売却後の手取りは、3,450万円となります。

相続税への影響

(単位:万円)

項目 現状 摘要
現状 10年後
自社株評価額
その他財産
現金
7,000
50,000
10,500
50,000
5,250(5,000株)
50,000
3,450
57,000 60,500 58,700
相続税 12,450 13,850 13,130
(注1) 株評価アップ(10年後)50%増 7,000×1.5倍=10,500
(注2) ①13,850-13,130=720万円の節税
②売却代金の3,450万円を得ることが可能となります。

【ポイント】未上場株の時価評価

  • 上場会社なみの大会社は、原則として、会社の業績に着目する類似業種比準価額方式で評価します。
  • 個人事業と変わらない小会社は、原則として、会社の資産価値に着目する純資産価額方式によって評価します。
  • 大会社と小会社の中間にある中会社の株式は、大会社と小会社の評価方法の併用方式で評価します。
    併用割合は会社規模によって異なります。
  • 会社の資産保有状況や営業の状況が特異である会社の株式は、「特定の評価会社の株式」として、どのような会社規模であっても原則として純資産価額方式によって評価します。
会社区分 評価方法
支配株主
(同族株主等)
一般の評価会社 大会社 類似業種比準法式 純資産価額といずれか少ない金額
中会社 類似業種比準法式×0.90+純資産価額(注1)×0.10
類似業種比準法式×0.75+純資産価額(注1)×0.25
類似業種比準法式×0.50+純資産価額(注1)×0.40
小会社 類似業種比準法式×0.50+純資産価額(注1)×0.50
比準要素数1の会社(注2) 類似業種比準法式×0.25+純資産価額(注1)×0.75
特定の評価会社 株式保有特定会社 S1+S2方式
土地保有特定会社 純資産価額方式
開業後3年未満の会社
比準要素数0の会社(注2)
開業前・休業中の会社
清算中の会社 清算分配見込額の複利現価法式
少数株主 一般の評価会社 配当還元法方式
特定の評価会社 その他の特定会社 (特例的評価方式)
開業前・休業中の会社 純資産価額方式
清算中の会社 清算分配見込額の複利現価法式
(注1) 議決権割合50%以下の同族株主グループに属する株主については、その80%で評価します。
(注2) 直前期を基準として1株当りの配当・利益・簿価純資産のうち、いずれか2つが0で、かつ、直前々期を基準として1株あたり配当・利益・簿価純資産のうちいずれか2以上が0の会社をいう。
(注3) 直前期を基準として1株当り配当・利益・簿価純資産のうち3要素が0の会社をいう。

役員報酬と配当の有利不利

1.配当と役員報酬の違い

会社オーナーの年間収入は、役員報酬2,000万円、自社からの配当収入500万円の合計2,500万円と仮定します。この配当収入を役員報酬に替えると、総収入2,500万円ということで代わりません。個人から法人の方に目を向けてみると、元々配当金は、法人が出した利益に対しして法人税等を支払い、残った可処分所得を財源として支払われるものです。すなわち、配当金は法人税を払った後にさらに所得税も払うという二重課税の構造をもっています。

配当金500万円を役員報酬で支給した場合のケース

配当金500万円を役員報酬で支給した場合のケース

2.株価の引下げにも効果

上記の通り、配当金を役員報酬に振り返ることにより、株価引下げの効果に繋がります。

未上場株式を評価するうえで、類似業種比準価額の引下げにも繋がります。
類似業種比準価額は、自社の”配当”、”利益”、”純資産”の3つの要素から算定されます。配当をゼロにし、しかも利益も引き下げるわけですから、株価は引き下げられます。しかも、現在は株価評価における利益のウェイトが高くなっているので、より効果的です。

【ポイント】類似業種比準価格の評価方法

類似業種比準価額方式は、業種の類似する大会社の平均株価に比準させて、評価会社の株式価格を求める方式です。比準要素は、1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額、1株当たりの純資産価額(帳簿価額)の3要素です。具体的には次の算式で計算します。

類似業種比準価格の評価方法

※斟酌率:大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5。

この算式におけるA、B、C、D、(B)、(C)および(D)はそれぞれ次によります。なお、A、B、C、Dの数値は国税庁から発表されます。

類似業種の 評価会社の
A 株価(注1)
B 課税時期の属する年の1株当たりの配当金額 (B) 直前期末における1株当たりの配当金額
C 課税時期の属する年の1株当たりの年利益金額 (C) 直前期末における1株当たりの利益金額(注2)
D 課税時期の属する年の1株当たりの
純資産価額(帳簿価額)
(D) 直前期末における1株当たりの
純資産価額(帳簿価額)(注3)

次の1~4のうち最も低い金額を採用します。

  1. 課税時期の属する月の類似業種の毎日の最終価格の月平均株価
  2. 課税時期の属する月の前月の類似業種の毎日の最終価格の月平均株価
  3. 課税時期の属する月の前々月の類似業種の毎日の最終価格の月平均株価
  4. 類似業種の前年平均株価
    「損益計算書上の利益」ではなく、「法人税の課税所得を基礎とした金額」を採用します。

純資産価額=直前期末の資本金額+資本積立金額+利益積立金額

相続人の自社株式の法人への売却

1.金庫株の税務

(1)売却した側の税務

原則
非上場株式の発行会社に売却した場合には、「みなし配当」課税として最高50%の税率で課税。

特例
平成16年度改正により、平成16年度4月1日以降の譲渡について、相続で取得した非上場株式を相続税の申告期限後3年以内に発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税は行われず、譲渡所得課税。

  • 譲渡として扱われるため、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」を併用できます。

(2)取得法人の税務

自己株式を取得した法人については、資本等取引となりますので、課税関係の発生はない。
A氏は相続で取得した株式を、発行会社B社(非上場会社)に相続発生から2年後に売却をした。

  1. みなし配当課税の場合
    (20,000円-10,000円)×10,000株=10,000万円(みなし配当)
    10,000万円×50%(最高税率)=5,000万円
  2. 譲渡所得課税の場合
    取得費加算
    2億円×1億円/5億円=4,000万円
    20,000万円-(10,000万円+4,000万円)=6,000万円
    6,000万円×20%=1,200万円
1.売却価額 20,000円/株
2.取得価額 10,000円/株
3.資本等の額 10,000円/株
4.売却株数 10,000株
5.A氏の相続税額 2億円
6.A氏の相続税課税価格 5億円

2.別会社の活用

ポイント

  1. 自己株式を売却した場合には、総合課税部分(みなし配当等)と分離課税部分(譲渡損益)に分けて課税されることになります。
    みなし配当については、総合課税となりますので、給与所得等の他の所得が高い場合には、税率が高くなり、結果として税負担が増える場合があります。
    そのような場合には、別会社が株式を購入するという方法が考えられます。
    この場合は、自己株式の売却ではなくなりますので、全て譲渡所得として扱われます。
  2. 買取価額
    会社が相続人から自己株を買取る場合の買取価額は、いわゆる「時価」になります。
    単純に「相続税評価額」で売却しますと税務上問題が残ることになります。
    時価の算定方法としては、「時価純資産額」や「(類似業種比準価額+時価純資産価額)/2」といった方法により算出することになります。

個人株主が法人へ株を売った場合の課税関係
発行法人に買取ってもらった場合
その売却益は「配当所得」となり、税率は、最大で50%

  • 税率は住民税を含む
    発行法人以外に買取ってもらった場合
    その売却益は「譲渡所得」となり、税率は、一律20%
  • 非上場株の場合
個人株主が法人へ株を売った場合の課税関係

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