先述したとおり、建物の購入に係る借入金の利子は必ず損益通算の対象になりますが、土地の購入に係る借入金の利子は、損益通算できない場合があります。そのため、土地と建物を同時購入する時には、購入方法や借入の仕方に注意する必要があります。
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ケース1: | 借入金額4,000万円の全額が建物の購入資金に充てられたとみなし、土地の購入のための借入金はないことになります。したがって、借入金利子の全額が損益通算の対象となります。 |
ケース2: | 借入金額のうち、3,000万円は建物の購入に係る借入とみなされ、残額の1,000万円が土地の購入に係る借入金となります。したがって、借入利息100万円のうち25万円(=100万円×1,000万円/4,000万円)が土地の購入に係る借入金の利子となり、損益通算の対象とはなりません。 |
不動産所得が赤字であることを前提に借入金額の設定のみを変動要因とした場合、借入金額を建物の購入価額と同額にすることが節税面及び資金面で最大の効果が得られます。
ただし、不動産購入時の所得水準や金利水準により分岐点は変化することになりますから、具体的には個別に検討することが必要です。
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ケースA: | 切り捨てられる土地金利が生じることになるため、結果的にBのケースとほぼ同じ節税額となります。 |
ケースC: | 切り捨てられる金利はないものの節税額が減少し、多額の自己資金を必要とします。 |
不動産所得が赤字の場合、土地の購入に係る借入金の利子は、全額または一部が損益通算の対象外となります。損益通算のメリットを享受するためにも、投資対象としては、全体に占める建物割合が大きいものを選び、土地部分は自己資金で、建物部分は借入金で資金調達するようにしましょう。
不動産所得がマイナスの場合には、切捨てとなる損失を少なくするようにしましょう。家賃の引き上げにより収入アップを図るか、減価償却方法の変更等により経費を減らすかの努力をして利益を出すようにします。
努力しても利益が出ないようであれば、同族法人か第三者に売却することを考えます。その場合には売却代金で他の不動産の土地借入金を返済し、全額借入金で建物への買換えかまたは、建物割合の大きい不動産への買換えの意思決定を考えてみてください。
【意思決定のフローチャート】 |
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医師、弁護士、税理士等の個人事業主の場合には、現在第三者に賃貸している物件を当該個人事業の従業員の社宅として利用する方法があります。この場合の従業員社宅は、個人事業の福利厚生の一環ということで不動産所得ではなく、事業所得に該当します。したがって、この損益通算の規制は受けずに土地に係る借入金利子も全額経費となります。
賃貸アパート、マンション等の賃貸物件は、建物の減価償却や借入金の返済が進んでいくと、不動産所得が発生し、個人の税負担も重くなってきます。このような高収益物件については、後継者が経営する不動産管理会社を設立することで所得移転が可能となり、節税の有効手段となります。
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後継者が経営する不動産管理会社へ建物を適切な時価または帳簿価額(個人の場合、毎年、法定耐用年数で償却しているので帳簿価額で問題ありません。)で譲渡します。時価での売却や低額譲渡により利益が出る場合には、所得が生じますので注意が必要です。
個人が地主で法人が建物所有者の場合、借地権の問題が生じてきます。この問題を避けるため、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。
また、会社が個人へ通常の地代を支払うことにより、土地の相続税評価が、自用地価額の80%となり、個人所有時の貸家建付地評価と同程度の減額がなされます(使用貸借の場合は届出を出していても自用地)。ただし、20%相当分が会社株式の純資産価額の計算上、加算されますので、会社の出資割合については後継者の出資割合を多くしておく方がよいでしょう。
4 所得移転の効果
これらの節税対策を図ることにより、以下のような具体的効果が期待できます。
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〈建物譲渡後〉 |
①個人の所得と税額 |
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②配偶者・子供の所得と税額 |
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③会社の収支 |
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建物譲渡前の税額 670万円
建物譲渡後の税額合計 個人261万円+配偶者・子供 47万円×2人+会社7万円=362万円
以上のとおり建物を会社へ移転することにより税額が670万円から362万円と減少します。差額308万円が節税となったうえ、少しずつ給与を通して配偶者・子供へ資産が移転していくことになります。