確定申告には、青色申告と白色申告があります。
青色申告では、決められた帳簿に日々の取引を正確に記録し、その帳簿記録に基づいて所得と税額を計算することを事業主に義務づけています。そのかわり、青色申告特別控除など節税につながる特典をあたえているのです。
【青色申告と白色申告の比較】
記帳方法 | 特典 | |
白色申告 一般向けの申告 |
簡易簿記 | 特別控除・節税メリットなし |
青色申告 ・不動産所得 ・ 事業所得 ・ 山林所得 がある人が選べる申告 |
複式簿記 | 青色申告特別控除 65万円 その他節税メリットあり |
現金主義簡易簿記 | 青色申告特別控除 10万円 その他節税メリットあり |
(1)青色申告者の義務
青色申告者には、所得税法上、以下のような義務があります。義務というと負担を感じるかもしれませんが、事業を行っていくうえでは、事業者として当然のことばかりです。
【帳簿書類の備付と記帳】
青色申告者は、一定の帳簿を備え付けて、すべての取引を正規の簿記の原則に従い、整然かつ明瞭に記録しなければなりません。つまり、複式簿記により記録しなければならないのです。 複式簿記といっても難しく考える必要はありません。会計ソフトなどを利用することにより簡単に作成できます。 |
【決算整理と決算書の作成】
青色申告者は毎年12月31日に棚卸資産の棚卸を行わなければなりません。棚卸を行う際には、棚卸表を作成して、棚卸資産の種類、品質、形等の異なるごとに、数量、単価、金額を記載します。 棚卸のほかにも決算のために必要な事項の整理を行い、12月31日現在で、貸借対照表と損益計算書を作成しなければなりません。 |
【青色申告決算書の提出】
青色申告者は、確定申告書に青色申告決算書を添付して提出しなければなりません。 青色申告決算書には、損益計算書、損益計算書の内訳項目、貸借対照表などを記載することになっています。 |
【帳簿書類の整理保存】
青色申告者は、一定の帳簿と書類を整理して保存しなければなりません。
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(2)青色申告者の届出
青色申告は、事業所得、不動産所得、山林所得を生ずべき業務を行っている者で、承認申請期限までに税務署長宛に届出を行ったもののみができる特典です。
【承認申請期限】
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(1)青色申告の特典
青色申告には数々の特典があります。これらを活かすことが節税のポイントです。
【青色申告の特典】
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個人事業の場合、配偶者や親族が従業員として働いていることが多くあります。しかし、事業者が生計を一にしている配偶者、その他親族に支払う給料は、原則として必要経費に算入できません。ただし例外として、配偶者や親族を青色事業専従者として届出して場合には、その給料を必要経費に算入できることになっています。
青色事業専従者に対する給与は、所得税法上の特例ですので、厳しい制限があります。
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青色事業専従者に対して支払われた給与についても、必要経費に算入されるのはつぎの3つのうち最も少ない金額となっています。
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白色申告者の場合、事業専従者の要件は、青色申告者と同様ですが、必要経費算入は次の二つの金額のどちらか低い金額です。
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個人事業者が事業を営んでいる場合、配偶者や父母、子ども等家族が従業員として働いていることがあります。また、家族や親族の所有する建物等を使用したり、資金の借入を行ったりする場合があります。
他人の場合には、給与や家賃、支払利息の支払をするのと同様に、家族や親族に対しても同じように対価の支払をすることがあります。
しかし、所得税法では、生計を一にする親族に対する対価については必要経費に算入できないという規定があります(別生計の場合には、必要経費となります。)
(1)生計一親族とは
生計一親族とは、所得や生活場所に関わらず、同一の生活共同体として生活しているかどうかがポイントとなります。具体的には次のような基準により判断します。
【生計一親族の判断基準】
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(2)生計一親族の負担する支出を必要経費とする
他人への対価は必要経費となるのに、生計一親族に対する対価は必要経費とならないこととなると、その分だけ所得が増加して税額も増加することなり不公平が生じます。
そこで、所得税法では生計一親族に対する対価を必要経費としない代わりに次のような規定を設けております。
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事業者が、取引先との関係を友好に保つための方法として、接待は欠かせないものの一つです。法人の場合には、税務上は原則損金不算入(一部例外規定あり)となっていますが、個人事業者の場合には、金額に上限がありませんので支出した費用は全額必要経費となります。
所得税法では、接待交際費は家事関連費に区分されており一定の要件を満たす場合は必要経費になります。
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税務調査では個人の家事関連費の可否判定を必ず行います。交際費については、いつ、誰と、何のためにの3点が重要なポイントとなります。これを証明するためには、領収書には接待した者の記載はもちろん、その理由が事業関連であることの記載も忘れずに行うことが重要です。
事業者は、将来発生するかもしれない売掛金や貸付金等の金銭債権の貸倒に備えて、一定の方法で計算した貸倒引当金を設定することができます。設定した貸倒引当金は、必要経費となります。
貸倒引当金に繰入れた金額は、翌年に戻入れを行い、収入計上しなければなりません。したがって、2年間を通算してみると貸倒引当金の繰入をしなくても同じになるため、引当金を設定しない場合もあります。しかし、今年は特に利益が増加したというときの決算対策には効果があります。
貸倒引当金は、12月31日現在の、事業に関係する売掛金、貸付金等の金銭債権合計額に、下記の割合を乗じて計算した金額を限度として設定する一括評価貸倒引当金と、一定の要件を満たした場合に設定できる、個別評価貸倒引当金があります。
個別評価金銭債権については、一括評価金銭債権に比べ貸倒となる可能性が高いものが対象となっているため、貸倒引当金の繰入限度額も多くなります。
(1)一括評価貸倒引当金の繰入限度額
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(2)個別評価貸倒引当金の設定要件と繰入限度額
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売掛金、貸付金、前渡金などの債権が回収不能になったときは、貸倒損失として必要経費に算入できることになっています。
ただし、債権が回収不可能になったからといってただちに貸倒れとして認めるわけではありません。税法上、債権の貸倒れがあったものとして必要経費への算入が認められるのは次の条件に限られています。
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回収の見込みがない債権をすべて、貸倒損失として処理できれば何も問題はありません。 しかし前述の通り、不良債権を貸倒処理できる条件は、上記3つ条件に限られます。 そこで回収の見込みが少なく、貸倒処理できない債権については、これを第三者に譲渡してしまうという方法が考えられます。
不良債権ですから、もちろん譲渡金額はその債権の額面金額よりも少なくなりますが、資金の一部は確実に回収することができますし、債権を譲渡したことによる損失は必要経費に算入することが出来ますので、十分検討に値するでしょう。
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(1)消費税の必要経費算入時期
消費税は所得税等と同様に申告課税方式となっており、申告した年分の必要経費とされます。個人事業者の消費税の確定申告は、翌年の3月31日までに行うこととなっています。
(2)税込経理であることを活用する
税込経理は、支払った金額が本来の価格と消費税とを区分しないで合計額で経理する方法です。本来価額と区分する税抜経理に比べ、現在の消費税の預かり高の把握が難しいという点がある一方で、経理処理が簡単なことから、小規模な企業で広く使われている方法です。
税込経理の場合には、前述の通り消費税の申告を税務署に提出した日を含む事業年度の費用として計算しますから、翌事業年度の費用になります。
しかし、税込経理により消費税を計算している場合において、申告期限がまだ来ない消費税を未払消費税として必要経費に算入している場合には、その計算が認められることになっています。つまり、未払金とした消費税分が費用とすることができるということです。
(3)継続的に適用しなければならない
上記の規定については、毎年継続的に適用することが要件となっています。従いまして、利益調整のために、年により必要経費算入方法を変更したり、金額の一部だけを必要経費とすることはできませんので注意が必要です。
固定資産税は、その年の1月1日現在所有している固定資産(土地、家屋等及び償却資産)の所有者に対し、課税台帳に基づき課税されます。
課税標準と税額計算は次のとおりとなります。
●土地・家屋 基準年度(3年ごとに評価替え)の1月1日現在で課税台帳に登録されている価格を基礎として計算されます。 住宅用地については、課税標準となるべき価額の1/3(200㎡以下の小規模住宅用地の部分1/6)が課税標準となります。(特定有料賃貸住宅については、最初の5年間の固定資産税の2/3を減額)。 新築住宅用家屋については、税額が1/2に減額とされる特例措置があります。 計算は、 ( 課税台帳価格 - 30万円(土地)、20万円(家屋) ) × 1.4% となります。 さらに、土地については所要の税負担の調整措置が行われて税額が計算されます。●償却資産 1月1日現在の償却資産の課税台帳に登録されている価格を基礎として計算されます。 なお、大規模の償却資産については、都道府県で課税する場合があります。 計算は、 ( 課税台帳価格 - 150万 )× 1.4% となります。 |
賦課課税方式の租税である不動産取得税、自動車税、都市計画税と同様に納税通知により納付税額が確定することになります。固定資産税の場合4月に納税通知が届き、年4回(6月、9月、12月、2月)の納付をしなければなりません。
支払った都度費用とすることもできますが、納税通知を受け取った時に総額を未払計上することで費用とすることで節税ができます。(法基通9-5-1(2))
経営者になると従業員には見せられない、人事や経理関係の重要事項の書類を作成、保管する場所として自宅の一部を事務所に使用している事も多いはずです。
個人事業主が、自宅の一部をオフィスや書類保管庫等として使用している場合には、床面積按分などによりその一部を費用とすることができます。
自己所有の場合には、建物の減価償却費、固定資産税、火災保険料、借入金利息等が、賃借物件の場合には、家賃が必要経費となります。
ただし、自宅をオフィスとして使用する場合でもその全部を使用していることはあり得ないでしょうから、事業用部分の面積や使用時間など、合理的な基準で業務上の使用割合を定め、これに対応した部分のみが必要経費となります。従いまして、過大な基準で算定された場合や、根拠のないものは費用になりません。
上記1のほか、以下のように判定を行ったうえで費用として計上できる場合があります。
【税法上の基準(所得税法施行令96】
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【税法上の基準(所得税法施行令96)】
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【税務調査での実地確認】
税務調査では、その使用状況を実地で確認されます。その際に、事務所・資料保管庫としての体裁が整っていない場合や、事業との区分が不明確であるなど、申告と異なる場合には、その経費性を否認される可能性があります。 |
以下でこれまでに否認された例を示しますので、必要経費として計上する前に確認をしておいてください。(※制作・著作/国税不服審判所)
【ロータリークラブの会費は事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入することはできないとした事例】
家事関連費が必要経費として控除されるためには、業務上の必要性及びその必要である部分が客観的に明らかでなければならないものと解されるところ、請求人においてロータリークラブの例会を中心とする各種会合に参加し、各種職業の経営者と懇親を深め、社会的信用を高めることは、請求人の公認会計士としての業務に何らかの利益をもたらすであろうことは否定できないが、ロータリークラブに入会したこと及びその例会に参加することが主として業務上の必要性に基づくものであると客観的に認めることはできないので、本件ロータリークラブ年会費の額を事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入することはできない。
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【医師が医院建築資金を銀行から借り入れる際に締結した生命保険契約に係る支払保険料は、家事上の経費に該当し、事業所得の金額の計算上必要経費とはならないとした事例】
整形外科医師である請求人が銀行から医院建築資金を借り入れる際に銀行の要請によって締結した本件生命保険契約は、保険金受取人を請求人の妻及び子としており、仮に保険事故が発生し保険金が支払われた場合、請求人の妻子に継承される債務を減少させるとともに、連帯保証人でもある妻の債務の負担を免れ又は軽減させることになるものであり、もって請求人の妻子の生活を安定させるために締結されたものであるから、これに基づく本件生命保険料は、所得税法施行令第96条第1号及び第2号に規定する経費とは認められず、同法第45条第1項第1号に規定する家事上の経費というべきであり、同法第37条に規定する必要経費に該当するものではない。
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【請求人の従業員は、青色事業専従者である配偶者のみであるところ、従業員等のレクリェーションのため慰安旅行をし 福利厚生費として処理したが、サラリーマン家庭が行う通常の家族旅行と何ら異なる点は認められないとして否認した事例】
請求人は、本件慰安旅行費用のうち、請求人及び事業専従者である配偶者に要した費用は、従業員等のレクリェーション費用として必要経費の額に算入される旨主張するが、[1]本件旅行は、家族4人のみで毎年8月に、配偶者及び子女の都合・希望を聞いて実施されており、サラリーマン家庭が行う通常の家族旅行と何ら異なる点は認められないこと及び[2]本件以外にも同様の旅行を実施しているのに、本件旅行費用のみ必要経費になるとした理由も明らかでないことから、本件旅行は、他の企業が実施している従業員のための慰安旅行と変わらないという請求人の主観的理由のみで事業に関連性を持たせ、必要経費に該当すると判断したにすぎず、客観的にみて事業遂行上必要なものであるかが明らかでなく、通常の家族旅行との相違点も認められないため、家事上の経費と判断するのが相当である。
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【従業員であり請求人の母親である者の死亡に伴い支出した弔慰金及び香典は、事業と直接の関連を有し、客観的に通常かつ必要な費用であるとは認められないことから、必要経費に算入することはできないとした事例】
請求人は、従業員であり請求人の母親である者の死亡に伴い支出した本件弔慰金及び本件香典は、事業所得金額の計算上必要経費に算入すべきである旨主張する。
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【請求人が支出した諸会費等が家事関連費に該当するとしても、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができないから、必要経費の額に算入することはできないとした事例】
請求人は、同人が支出した諸会費等(同窓会費、共済負担金、英会話研修費、旅費交通費、同窓会主催旅行の参加費用等)は、請求人の業務の遂行上必要な経費であるから、必要経費の額に算入すべきである旨主張する。
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【修士及び博士課程の授業料等並びに米国の大学への寄付金は弁護士業に係る事業所得の必要経費とすることはできないとした事例】
弁護士業を営む請求人は、大学院の修士及び博士課程の授業料等並びに米国K大学への寄付金は業務遂行上必要な支出であるから事業所得の金額の計算上必要経費に算入される旨主張する。
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以下は、上記とは異なり税務調査で否認されたものの裁判で逆転し認められた案件です。
【本件建物は、その一部を居住の用に供した事実はなく、そのすべてが事業の用に供されていると認定した事例】
請求人所有の本件建物の一部は居住の用に供されているとして、その部分に係る固定資産税及び減価償却費の額は必要経費に算入することができないとした原処分について、本件建物は、その利用状況からみて請求人及びその家族の居住を主目的として利用された事実はなく、請求人の歯科診療所として利用されているので、当該建物全部に係る固定資産税及び減価償却費の額は事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。
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個人事業の税制と法人の税制では、実は法人のほうがずっと有利です。個人事業者の究極の節税対策、最後の節税対策は法人成りなのです。
1 個人と法人の税負担の比較
<設例1>
(1)個人の所得税
(2)法人の場合の法人税と所得税の合計
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(1)借入金利子等
個人が借入により住宅等を購入した場合、賃貸など事業で使う場合を除いては、借入金利子は必要経費になりません。一方で法人が住宅等を購入して住居兼仕事場とすれば、借入金利子は会社の経費になります。ただし、住宅部分については、一定の方法で計算した家賃相当額を法人に支払う必要があります。 |
(2)家族従業員に支給する給与
個人事業者が家族従業員に給与を支払っても、事業専従者控除や青色専従者給与などの特例を除くと、原則として必要経費になりません。 一方、会社で社長の家族従業員に給与を支給すれは適正な額である限り損金に算入されます。 |
(3)代表者や家族従業員への退職金
20年30年と個人事業を続けて引退したとしても、個人事業では退職という概念がないので、退職金を支払うことはできません。一方で、自分で法人を設立し社長となり、同じように20年30年と働いて退職した場合、会社が社長の実績に応じた退職金を支払えば、損金に算入されます。このことは、配偶者やその他親族に支給した退職金でああっても同様です。 |
(4)家族に支払う賃借料・借入金利子
個人事業では、生計を一にする配偶者やその他の親族に家賃、借入金利子などを支払っても必要経費に算入することはできません。 これに対し、法人では、たとえ家族に支払う賃借料・借入金利子であっても。相当な金額であれば損金に算入されます。 |
(5)減価償却
個人事業では、減価償却は強制償却ですので、赤字の時にも償却しなければなりません。 これに対し、法人では、減価償却は任意償却ですので、赤字のときは必ずしも償却する必要はなく、償却による減価償却資産の費用化を次期以降に繰延べることが出来ます。 |
(6)赤字の繰越
個人事業では青色申告をしている場合、赤字の繰越ができるのは3年間です。 これに対し、法人が青色申告をしている場合では、赤字の繰越は7年間することが出来ます。 |