自社株式を譲渡する際の価額は、譲渡する側と譲渡される側の合意により決定されます。譲渡価額は第三者が決定するものではなく当事者間で決められます。
当事者間で合意した譲渡価額によっては、税務上の課税が生じる場合があります。
税務面から見たあるべき価額も一様ではありません。個人間売買と法人が当事者の一方または法人間売買になっている場合とでは、取扱が異なってきます。
【個人間売買のケース】 株式の相続税評価額未満で譲渡した場合、贈与税の課税が生じることになります。つまり、相続税評価額よりも低く株式を取得した側に、その安い分だけの贈与があったとして贈与税が課税されます。 |
【法人が当事者のどちらかである場合】 基本的には、「時価」でなければ課税が生じる。
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このように、法人が当事者となる場合「時価」との差額について課税が生じることになるため、譲渡価額が「時価」かどうか問題となります。
自社株の「時価」については、上場株式のような取引相場がないため、その算定が問題となりますが、原則的には、財産評価基本通達で定められている小会社としての評価額によります。
ただし、対象会社が土地又は上場株式を所有している場合は、「1株当り純資産価額」の計算にあたり、これらの資産についてはその時点での時価(相続税評価額ではなく取引相場)によります。
オーナーの所有する株式を関連会社へ売却する場合も、前述した「時価」でもって行なう必要があります。
オーナーの自社株を関連会社へ売却した効果は次の通りです。
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(単位:万円) |
項 目 | 金 額 | 摘 要 |
売却価額 取得価額 売却益 所得税・住民税 |
4,250 250 |
(5,000株×8,500円) (5,000株×500円)(4,000万円×20%) |
4,000 800 |
したがって、売却後の手取りは、3,450万円となります。 |
【相続税への影響】 |
(単位:万円) |
項 目 | 現 状 | 摘 要 | |
現状 | 10年後 | ||
自社株評価額 その他財産 現 金 |
7,000 50,000 ― |
10,500 50,000 ― |
5,250(5,000株) 50,000 3,450 |
計 | 57,000 | 60,500 | 58,700 |
相 続 税 | 12,450 | 13,850 | 13,130 |
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【ポイント】 未上場株の時価評価
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会社区分 |
評価方法
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支配株主 (同族株主等) |
一般の 評価会社 |
大会社 | 類似業種比準法式 | 純 資 産 価 額 と い ず れ か 少 な い 金 額 |
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中会社 | 大 | 類似業種比準法式×0.90 +純資産価額(注1)×0.10 |
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中 | 類似業種比準法式×0.75 +純資産価額(注1)×0.25 |
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小 | 類似業種比準法式×0.50 +純資産価額(注1)×0.40 |
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小会社 | 類似業種比準法式×0.50 +純資産価額(注1)×0.50 |
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比準要素数1の会社(注2) | 類似業種比準法式×0.25 +純資産価額(注1)×0.75 |
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特定の 評価会社 |
株式保有特定会社 | S1+S2方式 | |||
土地保有特定会社 | 純資産価額方式 | ||||
開業後3年未満の会社 | |||||
比準要素数0の会社(注2) | |||||
開業前・休業中の会社 | |||||
清算中の会社 | 清算分配見込額の複利現価法式 | ||||
少数株主 | 一般の評価会社 | 配当還元法方式 | |||
特定の 評価会社 |
その他の特定会社 | (特例的評価方式) | |||
開業前・休業中の会社 | 純資産価額方式 | ||||
清算中の会社 | 清算分配見込額の複利現価法式 |
(注1) | 議決権割合50%以下の同族株主グループに属する株主については、その80%で評価します。 |
(注2) | 直前期を基準として1株当りの配当・利益・簿価純資産のうち、いずれか2つが0で、かつ、直前々期を基準として1株あたり配当・利益・簿価純資産のうちいずれか2以上が0の会社をいう |
(注3) | 直前期を基準として1株当り配当・利益・簿価純資産のうち3要素が0の会社をいう。 |
会社オーナーの年間収入は、役員報酬2,000万円、自社からの配当収入500万円の合計2,500万円と仮定します。この配当収入を役員報酬に替えると、総収入2,500万円ということで代わりません。個人から法人の方に目を向けてみると、元々配当金は、法人が出した利益に対しして法人税等を支払い、残った可処分所得を財源として支払われるものです。すなわち、配当金は法人税を払った後にさらに所得税も払うという二重課税の構造をもっています。 |
【配当金500万円を役員報酬で支給した場合のケース】
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上記の通り、配当金を役員報酬に振り返ることにより、株価引下げの効果に繋がります。
未上場株式を評価するうえで、類似業種比準価額の引下げにも繋がります。 類似業種比準価額は、自社の”配当”、”利益”、”純資産”の3つの要素から算定されます。配当をゼロにし、しかも利益も引き下げるわけですから、株価は引き下げられます。しかも、現在は株価評価における利益のウェイトが高くなっているので、より効果的です。 |
【ポイント】 類似業種比準価格の評価方法
類似業種比準価額方式は、業種の類似する大会社の平均株価に比準させて、評価会社の株式価格を求める方式です。比準要素は、1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額、1株当たりの純資産価額(帳簿価額)の3要素です。具体的には次の算式で計算します 。
※斟酌率:大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5。 この算式におけるA、B、C、D、(B)、(C)および(D)はそれぞれ次によります。なお、A、B、C、Dの数値は国税庁から発表されます。
次の①~④のうち最も低い金額を採用します。 純資産価額=直前期末の資本金額+資本積立金額+利益積立金額 |
(1)売却した側の税務
【原則】
非上場株式の発行会社に売却した場合には、「みなし配当」課税として最高50%の税率で課税。 |
【特例】
平成16年度改正により、平成16年度4月1日以降の譲渡について、相続で取得した非上場株式を相続税の申告期限後3年以内に発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税は行われず、譲渡所得課税。 |
※譲渡として扱われるため、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」を併用できます。
(2)取得法人の税務
自己株式を取得した法人については、資本等取引となりますので、課税関係の発生はない。
A氏は相続で取得した株式を、発行会社B社(非上場会社)に相続発生から2年後に売却をした。
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(1)みなし配当課税の場合
(20,000円-10,000円)×10,000株=10,000万円(みなし配当)
10,000万円×50%(最高税率)=5,000万円
(2)譲渡所得課税の場合
取得費加算
2億円×1億円/5億円=4,000万円
20,000万円-(10,000万円+4,000万円)=6,000万円
6,000万円×20%=1,200万円
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【ポイント】
個人株主が法人へ株を売った場合の課税関係●発行法人に買取ってもらった場合 その売却益は「配当所得」となり、税率は、最大で50% ※税率は住民税を含む●発行法人以外に買取ってもらった場合 その売却益は「譲渡所得」となり、税率は、一律20% ※非上場株の場合
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